テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.1「Web-Radioって何?」
九州初!インターネットラジオfm-monday clubの超日常ダイアリー

1997年5月中旬執筆('97年7月号掲載)

 皆様こんにちは。インターネットが私達の生活の一部になりつつある今日この頃…。
 とかく日進月歩の技術情報ばかりが話題になるマルチメディアの世界ではありますが、いくら技術が進歩したとしても、その上に走るコンテンツを生み出すのはやっぱり人間様の脳味噌です。
 実際、マレーシアとかシンガポールなど、日本をアッと言う間に抜き去っていったマルチメディア先進国では、単にエンジニアを育成しているだけでなく、センスのいいディレクターやプロデューサーを育成することにも非常に熱心だと聞きます。ところが日本はこの分野での取り組みが実に遅れています。お陰で若くてキレのいい人材は枯渇する一方で、まさに赤信号が点灯した状態にあると言っても過言ではありません。
 技術知識なら負けない!という「コンピューターおたく君」が背伸びしてお洒落を気取ってはみたものの、所詮は専門外、本当のお洒落キッズからはまるで相手にされない…そんな悲劇も続出しているわけです。
 極論ですが「マルチメディアは文科系」…私は確信を持ってそう思っています。
 さて、このコーナーでは、技術系のお話から遠〜く離れて、極めて文科系的な視点でマルチメディアというものを私の独断と偏見(言い替えれば未熟と傲慢)で語ってみようかと思います。気楽におつきあい下さい。

 ところで…読者諸氏の所属企業又は団体で、インターネット上にオフィシャルのホームページを設けておられるところがあると思います。そこで唐突ですが質問です。

「あなたのホームページは見られていますか?」

 実はですねぇ…地方の自治体や企業に顕著にあらわれる実例として「アクセス数(ヒット数)の深刻な伸び悩み」というのがどうやらあるようなんですね。プレゼント等の物質戦法で人気を保つところもあるにはありますが、それ以外では「ピタリとアクセスカウンターが止まったまま」という自主フリーズ状態のサイトが目立つご様子。
 それは一体何故なのでしょうか?

…答えは簡単「面白くないんですよ」(でもホントです)
「インターネットでオラが村の情報を世界に発信!」なんて威勢のいいキャンプションを新聞でよく見かけますが、実際のところ、世界はおろか日本も、へたをすると地元ですら見られていない「人力回覧板以下!」のところが幾つもあります。とんでもない無意味な金喰い虫になってはいないでしょうか?
 とは言え、こういうサイトって、どれもホントに奇麗に仕上がってるんですね。いかにも「専門業者に発注したのだぞ。金かかっているのだぞぅ!」というのが多いのです。ところが蓋を開けたら一大不人気サイトの出来上がり…うむむ、費用対効果という観点からも到底看過できないことですね。
 そういった諸症状への処方箋というわけではないのですが、このコーナーではいろいろな事例を元にしながら、マルチメディア時代の人気者の作り方を探って参ります。

 で、今回ご紹介するのは手前味噌で大変恐縮なのですが、私が主宰しているインターネットラジオfm-monday clubについての雑記です。
 インターネットラジオと言うくらいですから、インターネット上でなにやら放送らしきものをやっている集団…そう思って頂いて結構です。
 96年9月に開設したばかりではありますが、現在までにヒット数は1万5千を数えます。アダルトサイトでもなければ、有名人が出るわけでもなく、ろくに宣伝もしていない個人サイトということを考えればこれは大ヒットと言っても過言ではありますまい。
そんな成功の裏側にある「人気サイト」への努力とチャレンジを文脈から感じて頂けたら幸いです。

地獄の開局準備
 インターネットラジオの開局作業とは言うものの、それ自体は普通のホームページ作りと何ら変わるところはありません。つまりホームページ構築のためのソフトまたは作成知識が必要となるのです。ところがうちには揃いも揃って文科系人間しかおらず、私も番組の制作技術は知っていてもインターネットとなるとまるでチンプンカンプンという非常にお寒い状態でありました。まさに「お先まっ暗」な状態であったのです。
 その上、これといった予算もないので、お手軽ホームページ作成ソフトすら買えません。会費の税率アップまたは特別徴収を行えば簡単に解決する問題ではありましたが、内閣の支持率を低下させるのも怖いですから(笑)、結局「ホームページをつくろう!」(発行みずき社)という1500円くらいの本を1冊だけ自腹(!)で購入。これを頼りに私のホームページビルダーとしての道はスタートしたのです。

 HTML(ホームページを構成する基本的な言語の1つ)については割とあっさり理解することが出来ましたが、タイトルロゴなどの画像ファイル作りが大変でした。フォトショップなどの画像ソフトを使えば簡単に凝った画像が作れますが、何せ貧乏団体の悲しさ。愛用のマックにはクラリスワークスと少しの無料ソフトしか入っていません。しかし元来の打たれ強さと逆境に強い性格が幸いして、この環境でもフォトショップ並みの画像作成を可能にする裏業を次々に発見!後に「フォトショップか何かで作られたのでしょ」と言わしめた画像ファイルを脆弱なソフトだけで作り上げることに成功しました。(トホホな話ですけど)
 しかも「軽い画像ファイル」というお題目を上げながら作成したため、表示に時間がかからず「ストレスがたまらなくていいですね」という感想を頂戴しました。凝った画像を使い過ぎたため、途中でお客さんに逃げられるサイトとの差がここでも歴然としています。

 とどのつまり、ホームページ作りに必要なものは、予算ではなく知恵と情熱、そして見てくれるお客さんの立場を考えたコンテンツ作りだと認識した次第です。
 最終的に、全40ページというかなり規模の大きいホームページをたった1人で、しかもたったの10日間で仕上げてしまうという快挙というか暴挙を成し遂げてしまったのでした。蛇足ですが睡眠不足と頭の使い過ぎでその後しばらく病院通いをするハメになってしまったのは言うまでもありません。ホームページビルダーには健康管理も求められるわけです。

リアルオーディオ
 インターネット上で、音声を流すには大きく分けて2つの方法があります。1つはデータをダウンロードし終わってから再生ソフトで聞く方法、もう1つはデータをダウンロードしながら再生する方法です。前者は、ダウンロードに時間がかかりますが、後者ならその心配はありません。これをストリーム再生と呼びますが、ストリームを可能にする代表的なソフトがリアルオーディオです。アメリカのプログレッシブ・ネットワークス社が開発し、世界的に最も普及したストリーム音声方式です。最新版では動画も再生可能になっており、動画ストリームの代表的な方式であるストリーム・ワークスやVDOとのシェア争いが注視されています。
…というインターネット雑誌の受け売りはさておき、fmcでもリアルオーディオ方式を採用しまして、1週間の試験運用期間を経て、1996年9月、正式にインターネットラジオとして動き出したのでした。

1日のアクセス約200!!
 難行苦行を経て開設した「インターネットラジオfmc」でありますが、その噂が噂を呼ぶ形で、次第にヒット数も上昇…。インターネット専門誌だけでなく様々な雑誌や新聞でも取り上げられるようになったこともあって、現在では1日当たりおよそ200アクセスを集めるに至りました。
 アダルトサイトなどでは日に数10万アクセスなどという驚異的な所がある位なので、それらと比較するとまるでお話になりませんが「特別な宣伝をしているわけでもなく、尚且つ物が貰えることもない《お得でないローカルサイト》という点では及第点」とのお褒めの言葉を専門の諸先生から頂戴しております。
 これはまさに、映像・文字・音声といったマルチメディア性、さらには、リスナーとの双方向性を重視したコンテンツ作りを行っていること、番組の中身がオリジナルの極致。他の一般局では取り上げない機知に富んだテーマやかなりブラックユーモア的な毒気を持っていることなどが挙げられます。
 尚、繰り返しになりますが、JAVAやデータ量の大きい画像など、お金をかけて作った美麗ホームページにありがちな肥満ファイルは全く使用せず、非常にベーシックな構成で「極めて軽く作られている」こともウケがいい要因となっています。
 既に全国的な規模でのリスナーズクラブも誕生し、電子メールを使ったメッセージやリクエストも頻繁に舞い込むようになりました。まさに「してやったり!!」なのです。

以上、fmcの雑記をお読み頂きましたが、これらの中からホームページを作成するに当たって重要なファクターが浮かび上がってきます。

とにかく軽いこと
どんなに凝った奇麗な画像でも、データが大きくて表示されるのに時間がかかるとお客は逃げてしまう。ほとんどのネットサーファーが低速のモデムを使用している現実を考慮すべき。

なんとなく楽しそうなイメージ
タイトルや検索エンジンに登録したコメントから連想されるイメージは極めて重要。シンプルで分かりやすいものに。

オリジナリティ
T類型の典型Uになってはいないかを自己点検すべき。

見る人の立場を考える
あまりに複雑な順路や、多すぎる情報をテンコ盛にするのは考えもの。はじめてアクセスする人でも明確に理解できるように努める。

・・・逆に一番ダメなこと。
社長や首長の挨拶
構成上必要不可欠なコメントであるとか、余程面白いキャラクターでなければ、はっきり申し上げて出てこない方が賢明。出たとしてもさりげなくじゃないと逆効果になること請け合い。

表紙だけで中身がない
コミュニティ放送局のサイトで何故かよく見かけるのがこのタイプ。やる気の無さが伺える。もっと伝えたいこと、番組とのリンクなど積極的に活用すべき。

工事中
やたらと未完成でT工事中Uと表示されるページばかりという所がよくある。それならそれでリンクを張らない方が賢明…。時間をかけて表示されたあげくにT工事中Uなんて悲劇がよくあるが、これでは見る人の反感を買うだけ。

ここがポイント!!
■コンセプトプロデューサーという職柄上、企業や自治体から講演を依頼されることがありまして、その際に「類型が近くにいないか」ということをよく申し上げます。つまり、似たような「商売がたき」が近くで店開きしていないかを第一に考えよ!…ということを言いたいわけなんです。

■よく「村おこし」「町おこし」ということで地元の特産品が加工され売られています。ところが、こういう商品の多くは、隣村あるいは日本中の同規模の地域で「類似品」を発見することが容易に出来てしまいます。地方の町村ではどうしても都市部からの観光客などをターゲットにしがちですが、むしろそれ以前に、ちょっと言葉がキツイかも知れませんけど、周辺の町村を「仮想敵国」として捉え、敵が何を作ってどう売ろうとしているのかをまず最初に考えるべきなのです。要するに、マーケッティングの矛先を変えろということなのです。
調べてみたら「周辺町村との連合軍もイケる」というコロンブスの卵的戦略が浮上してうまくいった…なんていう実例もあるくらいですからマーケッティングは侮れません。

■さてさてマルチメディアの話に戻しましょう…。インターネットの世界では「検索エンジン」というものがネットサーフをエンジョイする上で特に重要な役割を果たしています。検索エンジンは、言ってみれば「非常に頭の回転が早い電話帳」みたいなもので、例えば『温泉』と入力すればあっと言う間に温泉関係のサイトが一覧となって表示されます。もちろん何百というカテゴリー(分類)が設定されているわけですが、ここでも重要になってくるのがやはりT類型が近くにいないかUということなのです。同じカテゴリーの中に自分のサイトと類似戦術あるいは類似手法のところがないかをまず入念にチェックするべきです。現に、地方発信型の村おこしサイトなど、似たような所が多すぎてアクセスする意欲を半減させています。

■fmcでは、ミニFMやインターネットラジオというカテゴリーに含まれる全てのサイトを徹底的にチェックし、同業者のどれとも似ていないオリジナルのイメージを確立することに努めました。結果として、烏合の衆から一歩抜き出た形となり「ちょっと目立つ」ことに成功したわけです。雑誌等のインターネットラジオ特集でも編集者がまず最初に声をかけるのがfmcという狙い通り!の効果ももたらしているほどです。

インターネットでラジオの近未来
「なにもインターネットでラジオを聞かなくても」という声があります。
 確かにインターネットの限られた回線を介してラジオを聞くというのは一見無駄なことに思えます。否、確かに無駄です。
 しかし、それは不特定多数を相手にした「マスメディア」「ブロードキャスティング」としての放送形態についてのみ言えることで、例えば限りなく少数派を相手にした言わば「ナローキャスティング」という観点においては、むしろ電波媒体の方がはるかに無駄が大きいのではないでしょうか?
「聞きたい人だけが自らの嗜好に基づいて聞く」これまでオーディエンスセグメンテーション理論という「送り手側」から見ただけの勝手な編成理論によって、ただ「傍観者」としてしか存在出来なかったリスナー側が、インターネットラジオの登場によって初めて選択権を持った・・・かなり大げさですが、そんな気もしています。
 今後インターネットラジオ局はどのように展開していくか。また,インターネットラジオ局の可能性,限界については以下のように考えています。
 回線コストの低価格化。ある程度の規格統一(音声系ではRealAudioに傾きつつありますが)が進むこと。さらにはインターネット対応テレビだけでなく「インターネットラジオ対応ミニコンポ」という目のつけどころがシャープでしょ!的な製品が登場すれば爆発的に普及することと思います。そうでなくても、多少の知識があれば誰でも開局することが出来るわけですから、80年代前半に巻き起こったミニFMブームに近い状況になることも満更無いとは言えません。
 しかし、そこで確実に問題となってくるのは、やはり「中味」です。 ミニFMブームが急激に衰退した原因は「素人番組を誰も真剣に聞こうとしなかったし、当然リアクションも無かった」という点に尽きます。リアクションが無ければやっていく気力が失せることは明白です。
 結局は、他とは違う確固たる個性を打ち出し、なおかつ「物珍しさ」が継続する企画力を持つことが生き残りの鍵となるでしょう。
 私達fmcでは、現在プロバイダのサーバを間借りした形で運営しておりますが、近々自前のサーバを持ってさらにパワーアップした放送を実施致します。そして商業放送化を視野にいれて様々なフィールドワークを進めて参ります。
「コンピュータ・ミュージック・マガジン97年3月号」(電波新聞社刊)に一部加筆。

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