テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.9「フォーラム・シンポジウム・研究会でござい…。」
九州の弱点を指摘してみました
1999年5月下旬執筆('99年7月号掲載予定)

 今回はズバリ!直球勝負で参ります。遠慮なく参ります。(笑)
「書を捨て町に出よう」という言葉がありますが、私はこれに準えて「フォーラム・シンポジウム・研究会なんかの会合に出るくらいなら、町に出て人々を観察しよう!」という非常にゴロの悪い標語を提案しています。

 否、フォーラム・シンポジウム・研究会云々というスタイルやそのシステム自体が悪いと言ってるのではありません。やっている中身が「とてつもなく浮き世離れしている」のが余りに目立つので、あくまで私個人の主観ですけど、参加するのは時間の無駄だなぁと思っているのです。
 実際そうでしょ…。「視点が散漫で結論がまとまらない」「まとまっても何百ページもの論文で、読む人がいない見事な紙の無駄遣い」「30人来て発言者はたったの5人」「司会が日和見かつ下手くそで議論が全く白熱しない」「とりあえずだらだら長時間」「参加者が不勉強で実態を全然把握していない」…これらに当てはまらないフォーラム・シンポジウム・研究会という奴を私は殆ど見たことがない。
 ことマルチメディアに関して言えば、最近いろんな団体や企業がご多聞にもれず「フォーラム・シンポジウム・研究会云々」を続々と立ち上げていますが、私の周りにいる現場最前線のトップクリエーター達でそれらに関わっている奴は見事に1人も居ない。これは一体どういうことでしょうか。

 勘違いしないで下さいね…。「フォーラム・シンポジウム・研究会云々」にそういう《イケてるクリエーター》を今すぐ呼べ!呼べばなんとかなる!…って言ってるんじゃないんです。もっとも呼んだとしても、第一線クラスのクリエーターだったら「時間の無駄だ」と当然躊躇するでしょうから、まず来やしません。高額なギャラなら別ですが。
…てな話を展開する前に、何故にそんな偏屈な《イケてるクリエーター》に重きを置いた文章を私が書いているのかというお話をしましょう。

 数多くの実体験があるので、あえてはっきりと申し上げますが「フォーラム・シンポジウム・研究会云々」での高名な学者先生、行政のお偉いさん、普段何をやっているのか分らない評論家の方々の有難いお話は、概ね《イケてるクリエーター》の後塵を拝する『イケてない話』ばかりであります。要するに『遅れぇてるぅ!』なのです。
 ハイハイ分かってます。勿論、研究途上の先端技術や、政策に関するものなど、専門分野に於いてそれなりに重要な役割を果たしているケースも「確かに」ありますよ。しかし、マルチメディアとりわけ《町おこし》や《企業イメージアップ》など、裾野の広い分野における戦略ならびに戦術の立案という点に限って言えば『遅れぇてるぅ!』は自殺行為以外の何ものでもないのです。その証拠に『遅れぇてるぅ会社』なんかは、この不景気風を泳ぎきれず、まるで半病人モードではありませんか? ところが、そこら辺の危機感を「体温」として敏感に関知しいない御仁が多すぎるんですな…特に地方都市では。これはひょっとすると致命的な欠陥かもしれませんよ…。

ではそんな『イケてなかった実例』を1つご紹介…。
 今から5年ほど前、とある地方のマスコミ某社が、パソコン通信の「草の根ネット」(個人や団体が自主的に運営する非営利のネット)の運営責任者を一堂に集めて一種のフォーラムを立ち上げたことがありました。5年前と言えば、既に我が国でもインターネットブーム到来の予兆が感じられていた頃ですね。パソ通からインターネットへの過渡期の入り口だったと申せましょう…。
 某宴会場で開かれた豪華なフォーラム設立記念パーティで、参加したネット主催者の多くは「破格の800円で飲み食い出来るって聞いたから来ただけのこと。こんなフォーラムは何の役にも立たんわい!」と実に醒めた目で嘲笑していたのを記憶しています。そして実際、このフォーラムは我々の予想通りインターネットの普及に押され、あっけなく雲散霧消しています。
 このフォーラムがどういう意図で、誰の発案で動き出したのかは知りません。しかし確実に言えるのは、時代の趨勢(すうせい)も読まず、実態も把握せず、ただ思い付きで始めたものとしか考えられないということ…。私はこういうケースを見るにつけ、メタファーとしてはかなり乱暴ですが、かつて50年前に愚かな将軍が部下を片っ端から犬死にさせた「インパール作戦」という今世紀最低の暴挙を連想するのです。嗚呼悲しいかな日本人は50年経っても進歩していないのか…合掌。

逆に『イケてる実例』を1つご紹介…。
 滅多にマスコミには登場しませんが、東京在住の弟子が作った会社でMハイスクールコンビナートという《超優良ベンチャー企業》があります。この会社は年に1回選挙で社長を決める変な会社です。しかし、もっと変なのは、設立して今年で13年経ちますが、歴代社長は全員現役高校生ということです。ちなみに社員も全員高校生…。給料は生意気に《一般地方公務員よりちょい上》であります。
 業務は専らマーケッティングリサーチ&デベロップメントというもの…。なんとまあ高校生だけでも立派に経営が成り立っているのであります。尚、一言付け加えておきますが、バブルの頃によくマスコミに登場した「女子高生による怪しげなイベント会社」とか「裏で大人があやつる高校生利用型企業」なんかとは一緒にしないで下さい。彼等は、そう思われることを嫌ってマスコミ露出を極力控えているのです。
 また、あくまで学業が本分の高校生ですから、営業マンみたいなのも居ません。あくまで放課後だけの時限企業なのです。
 では、そんな会社がどうして黒字経営できるのかと言うと、主に首都圏に本社を置く大企業様からの熱い信頼を得ているからなのです。
 先見性豊かな「柔らか頭の優良大企業」は、時代の流れに敏感であることは当然ですが、それ以上に重要な課題として《子供達への情報擦込みによる10年後の利益向上》という長期戦略を持っています。
 つまり、子供達に企業イメージや商品購買習慣を日常行動の中で効果的に覚え込ませることによって、彼等が購買層に成長する10数年後に優良顧客になってもらおうというものです。まるで光源氏のような狡猾な戦略です。
 でもこれはマスメディアにも言えることでして、60才代の世代がNHKを好み、40代が日テレやTBSを好み、20代がフジテレビを好むのは、子供の頃に擦込まれた視聴習慣が成せる技です。「団子3兄弟」にもそういう長期戦略があったのか…というのは考え過ぎかな?
 さてさて、そういうティーン向け長期戦略のお役に立つのが「ハイスクールコンビナート」というわけで、商品企画からメディア企画まで随分いろんな分野で参画しています。しかも企業側が広告代理店を信頼しきっていない場合などにも伏兵プレゼンターとして見事に活躍しています。 ともかく『若者のことは若者に聞いてから考えるのではなく、若者に決めさせろ!』…この鉄則に則ったシンプルな思考回路の企業が、この平成大不況の御時世でも意気軒昴な御様子です。当たり前と言えば当たり前なんですけどね、ところがこれが地方に行くとホント駄目なんだなぁ。

九州の弱点は権威主義にあり!
 相当端折って言えば、何でもかんでも『権威主義』ですよね…。そこら辺の「フォーラム・シンポジウム・研究会云々」なんてもの自体ズバリ権威製造システムそのものじゃないですか。新しい物を生み出す際に権威なんてものは「百害あって一利なし!」って皆んな知ってるくせに。
 でも面白いですね。前出のハイスクールコンビナートも流石に一流企業相手に商売やってますから、噂が広がって一種の《権威》に祭り上げられつつあります。案の定、地方からのオファーが最近増えているそうです。しかもご多聞にもれず「フォーラム・シンポジウム・研究会云々」へのゲスト参加のオファーばっかり。勿論彼等は笑ってお断りしているそうです…。トップクリエーターだからです。
 私んとこの『WEBラジオFMC』も似たようなものでして、これまで実態の掴めない怪しい若者集団!と思われていたものが、やれNHK出版発行の専門誌で巻頭特集3ページで取り上げられたり、英国BBCが取材したり、ストリーム関連の国際見本市からゲスト招請が来たり、幾つかの大学で講師を依頼されたり云々…その途端!地元熊本のいろーんな偉いさんの顔色が急に変わったことを私達は見逃さなかったですよハイ。
 でもそれがズバリ九州の弱点!《身近に転がっている優れた才能を自分の目で評価できない悲しさ》《東京が認めないとそれを認容しない能率の悪さ》…嗚呼、なんたること!東京が認めなければダメっていうんだったら、いつまで経っても九州は自立出来ないってことですよね…。これは直ちに改善すべき重要な課題なんじゃありませんか?

で、ここで提案します。
 九州在住の10代〜20代の《無名》の若手クリエーター(特にマルチメディア系)の中からイキのいい奴を見い出してお手軽コンテンツを作りましょう!コンテンツって言ったってなぁに普通のTV番組でOKです。WEBでストリーム放送すれば、それだけでも立派なマルチメディアになります。インタラクティブにやるのもお手のものですしね。
 フォーラムでもシンポジウムでも研究会でもない、あるいは各々のエッセンスを帯びているのかもしれない、しかしそのパフォーマンス自体が既にマルチメディアを具現化した一つの作品になっている。そんな合理的なアクションこそ近未来のマルチメディアを形作って行くものだと私は確信しているのです。
 無名だけど才能ある若手クリエーター達が、PCやら音響機器やら映像機器やらをずらり並べた無機質な空間で、実際にパフォーマンスしながら「何がダメで何をやりたいのか」を気楽にブレインストーミング。
 彼等が作った作品を反権威主義の象徴!小学生が審査する酷評OK。なんとお手軽かつ乱暴なコンセプトの番組。でも結構インパクトもあるし、何よりそれ自体から新しい文化や技術を発信できる。しかも若い才能をそのまま活用できてスポンサーにとっては二次的効果も抜群!お金持ちの皆さんスポンサーやりませんか?(笑)

・メーカーの新製品やプロトタイプを展示する。
・研究所から持って来た開発途中の新技術を展示する。
・パネルを使って未来のマルチメディアを解説する。
・その道の権威による長時間の講演。
・論戦の無いパネルディスカッション。
・来場者へのアンケート。

 上の枠内に示したのは、フォーラム・シンポジウム・研究会云々のよくあるスタイル、その要点をまとめたものです。ここにマルチメディアをクリエートする何かがありますか?

 会議室で難しい顔してマルチメディアを語っているようでは、マルチメディアなんて言う得体の知れない怪物に、いつまで経っても追いつけられないですよ。
 もっと気楽に…。でも、将来を見定める確かな目と、足下に埋もれたポテンシャルを見落とさない繊細さを持って行きましょうよ九州の皆さん!

「事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだ!」
…青島君が叫んだ言葉は、九州のマルチメディアにもそのまま当てはまると思いませんか?

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