テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.22「いたちごっこ+反IT宣言」

2002年7月上旬執筆(2002年10月号掲載)

(前書き)

「ネット悪、いたちごっこの繰り返し、知恵はいつでも、ワルが先行く」てな川柳でスタートしましょう。さてさて《いたちごっこ》という言葉ですが・・便利な時代です。ネットで検索すればものの数秒で意味が引けますよ。重たい辞書が殆ど不要というのは実は凄いことなのであります。
ちなみに辞書の老舗「三省堂」が出している「新辞林」のネット版によりますと・・
《いたちごっこ》同じことの繰り返しで,埒(らち)のあかないこと。子供の遊戯の一。二人で向かい合って,「いたちごっこ,ねずみごっこ」と唱えながら互いに相手の手の甲をつねりながら順に重ねていく遊び。・・とあります。今さら解説は不要ですが「ある行いに対する対策を講じても、それを圧倒する新しい方法でその行いが続く・・その連鎖」ということになります。ネット悪、まさに《いたちごっこ》なのであります。


いたちごっこ。
・・去る9月24日に報じられたニュースによりますと。
携帯電話に広告メールを一方的に送信される「迷惑メール」問題で、法律で義務付けられた「未承諾広告※」の表示を規定通り付けていない違法メールが約14%に上ることが、NTTドコモの内部調査で分かった。
ドコモが270台の携帯電話を使い、8月に実施した迷惑メール調査によると、「未承諾広告※」と正確に表示したメールは約86%、全く表示しなかったか、表示が不正な違法メールは約14%。9月もほぼ同じ割合が続いているという。
携帯電話会社は顧客の希望により、不正表示メールの受信を拒否する対策を打ち出した。ところが不正メールは表示を「」(かぎかっこ)で囲んだり「未」を「末」としたり、間に空白を入れるなどして対抗。メール表題部の文字を1字変えるだけで受信拒否機能が働かなくなる、対策の弱点を突いたとみられる。

まぁこんなもんでしょう。私の携帯も迷惑メールお断りモードに設定しておりますが、今でも毎日10通近くは届きますね。読まずにすぐ削除ですが、迷惑であることには変わり有りません。
ところで、ちょっと頭を柔らかくさせれば分かる事なんですが、迷惑メール防止策として打ち出された「未承諾広告※」という表示法。記事に書いてあるような《抜け道》については、この制度が導入される前に、あちらこちらの居酒屋で半ば嘲笑を加えつつ酒の肴になっておりました。
「半角数字でも全角でもいいから、頭に5059(広告のゴロ合わせ)をつけさせる。で、絶対にこの数字の左側には何も書いてはいけない」とかの方が、まだマシだというようなことは、この制度を考案した頭脳明晰な方々だったら当然お分かりだったでしょうに・・一体どうしちゃったんでしょうかね。
《いたちごっこ》を断ち切る1つの方法があります。アバウトな表現なので分かりにくいかもしれませんが『人生の機微』を読むことですよ。
「人というものは、何かしら歩む道を探すため、山や谷などの高低差から、自分の進むべき道を探し出す本能」を持っています。つまり、抜け道や未知の道を探し出すこと自体が「人生そのもの」なのでありまして、それが例え「悪の道」だろうが「善の道」であろうが、そんな尺度なんてものは、所詮、社会規範や道徳という文明以後に構築された「浅い」ものなのでありまして、「道を探す」というのは、むしろDNAに刻み込まれた本能と言ってもよいでしょう。
ですからね、制度を作る者は、そういう「人間の本質」つまり「機微」を分かっていないといけない。
今回の迷惑メール防止策を考案した人は、多分「遊び」というものをあまり御存知無いように思いますね。
「ホモ・ルーデンス(homo ludens)」という言葉を御存知でしょうか?オランダの歴史家ヨハン・ホイジンガの著書のタイトルであります。訳せば「遊戯的人間」という感じでしょうか。人間の「遊ぶ」という行為は、不真面目な行いではなくて、実は重要な役割を果たしている。むしろ人間が人間であるための文化の本質と密接に関わりあっていると論じている名著です。
ホモ・サピエンス程度の認識で、人の動きを読もうとすると、すぐに「いたちごっこ」が始まります。しかしホモ・ルーデンスと割り切って、裏の裏を書き、もっと言えば、その芽をも摘むことは意外と簡単です。
例えば、暴走族や暴力組織が無くならないのも、マニュアルに縛られた「共存関係」の枠から一歩も出ないからでありまして、ここに、古い言葉を用いれば『ファジー』な対応策を組んでいけば、意外と早期解決は出来たりすると思うのです。(もっともこれらの諸悪は社会情勢によっても大きく変わりますので、一概には言えません。あくまで個々のケースでの話です。)



反IT宣言。
これまでこのコーナーでは何度もマルチメディアの脆弱性をチクリチクリと述べて来ましたが、最近、1つの結論に達しましたので書きます。しかも朝令暮改だと揶揄されるかもしれませんが、あえて書きます。


ちょっとやそっとのマルチメディア化では何も始まらない!
例えば『SOHO』・・一部の業界では「使えないことこの上なし」の蔑称としてSOHOという言葉が用いられているくらいで、本当にバリバリ仕事しているSOHOさんは自らをアホらしくてSOHOなんて言わなくなって来ています。(ホントだよ)
結局「IT系個人事務所」とでも言った方が気が利いているわけですが、この「IT系個人事務所さん達」も、最初はメールやBBSで仕事の打ち合わせを行い、出かけることなく家にいて仕事をする!という大目標がありました。しかし所詮『出来っこない』のです。バリバリ仕事をこなしている「IT系個人事務所さん達」にはむしろ《言わずもがな》でしょうが、メールとかそんなもんオンリーで仕事がまとまるようなラッキーは殆ど発生致しません。
とどのつまり、何だかんだで《直接会って》打ち合わせをしないと、かえって判断ミスや二度手間を招く事が多く、どのIT系個人事務所さん達もそうですが、結局『運転免許&自家用車』が重要アイテムということになっております。
そりゃそうでしょう。ハイビジョンクラスのクオリティを持ったテレビ電話でもあれば別ですが、こんなものが一般社会に普及するにはもう暫く年月が必要でありましょう。それまでの間、メールやBBSや音声電話、ファクスなど当たり前なIT機器に頼っていくわけですが、こんなものでは話のニュアンスとか細かいディティールなんてものは全く伝わって来ません。表情から伺うことも無理ですからね。結局会って話すのが一番なんですよ。
てなわけで、実はまだまだIT機器なんてものはコミュニケーションツールとしてはお寒い限りで、『いけてるマルチメディア』なんてこんな文章を書いたり、偉そうに講演して回ったりということが恥ずかしくなってきました。ですから私は当分の間『IT懐疑派』を宣言します。(マジで・・笑)


過渡期のジレンマという話も・・
しかし、逆手にとって考えればこの状態というのは、まさに《過渡期》のジレンマみたいなもので、いずれ大きなウネリとなって、世の中の仕組み自体がガラリと変わるであろうということだけは期待できるわけです。だから私も今はアップアップしながらも、なんとかこの状況の中で泳ぎ続けているというわけです。多分、中小のコンテンツ系事業所の皆さんも同じ感覚なんじゃないかなぁ・・。


FMCが転向した?
「直接会って話す」という点では、我が『FMC』にも大きな変化が起きました。これまで業務連絡と言えば、専らメールとBBSだったんですが、その便利さは確かに認められるので、利用すること自体は留保しつつ、週に1回は会っていろいろ話す(スタッフ以外の人、ぶっちゃけた話誰でも良い)会を催すことにしました。ちなみに酒も肴も出ます。
「おいおいそれじゃただのコンパじゃんか!」という声が聞こえてきそうですね。その通り!コンパです。面白いですよ。謀議も可ですからね。池田屋の2階でヒソヒソ話をやってる感覚です。(実際は声はデカい・・笑)
謀議の1つをご紹介しておきましょう。まずは前置き…。
検索サイト『EXITE』のインターネットラジオ人気ランキング等で『FMC』は既に2年連続ベスト10入りしておりまして、サイト自体のポテンシャルも商用サイトと何ら変わらない否それ以上の影響力を持ち始めております。
インターネットラジオサイトという点では「他の九州圏内FM局・AM局のそれ以上である」と言われて久しかったりします。
さてここからが謀議。各々参加者の表情が面白い。(これって、チャットやBBSでは絶対に伝わらないな)
「この際、商業インターネット放送局化しちゃったら?」
「NPO法人でも面白いかも」
「県内の大学生とか若者とのネットワークという点では、実は他の地元放送局よりFMCの方が強い。だって放送局がFMCに聞きに来るくらいだもん」
「日テレとかフジテレビとか、熊本の新ネタなんかを調べたい時は、まっ先にFMCに聞きに来るぞ」「えっ嘘」
「ほんとだよ」
「実はNHKもだよ」
「すごいじゃん」
「合資会社をそろそろ卒業して、株式会社を狙ったら?」
「確かにスキームは出来てるようなものだ」
「後は事業計画をまとめて」
「出資者を募ろう」
「5年以内に地上波並みのレイティングを!」
「相手がCSだったら、既に勝ってる!」
(一同大爆笑!)
・・・な〜んて会話が延々続くわけであります。ね、割と正しい宴会でしょ。毎週やってるんですよ。
これをビデオチャットでやっても、むしろ空虚な感じがして盛り上がらなかったでしょうね。ところが、実際に顔を会わせていると《熱》が発生する。この感覚はむしろ「青春時代のアイドルは、天地真理とか麻丘めぐみだった!」というズバリ《おじさん》の方がよく分かるかもしんないですね。あ、ちなみに私の頃はおニャン子でしたが。



熱い若者達は、
そんなにITには頼っていない。

先日、ちょっと面白い会合に呼ばれまして出掛けて来ました。九州の大学生を中心に、ともかく若い人達が『自分達が住んでいるこの町を面白くしよう!』という非常に健全な思想を持って活動しているんですが、彼等のナマの姿を見て頂戴というお知らせが届いたんですわ。
彼等がやっていることはいろいろあるんですが、その1つは、夏休みに《国立阿蘇青年の家》に170名の若者が集まっていろいろ話しあったり歌ったりという、まるでふた昔かし前にあった「ジャンボリー」のようなイベント。タイトルは『がむしゃら』・・。8月末に台風接近する中、2日間に渡って、いろんなプログラムが展開されました。
他にもいろいろありましてね、例えば地元の県会議員さんのIT偏差値をはじき出そう!というプロジェクト。
これは、Webサイトを立ち上げている議員を抽出し、そのサイト内で公開している情報の多寡や質を一定基準で判定し、順位付けするというもので、その結果を各議員宛に送り付け、フィードバックがあるかないか?その後の対応はどうか?などを逐一公開しちまうという《柔らか頭でない議員》には極めて恐ろしい(笑)プロジェクトなのであります。
私が呼ばれたイベントは、それらの各プロジェクトのリーダー達による「プレゼン」でありまして、プロジェクターを用いて、活動報告や今後の計画などを《熱く》語るというものでありました。
いやあ、昔の自分を見るようで、ちょいと忘れかけていた《熱》も蘇って来たような気がしました。(もっとも、そこら辺のオヤジよりは遥かに熱いですけどね・・笑)
で、彼等はITとどう接しているかというと、やはりメーリングリストやBBS、Webサイトという「よくあるツール」です。私も彼等のメーリングリストに加えて頂きましたが、どうやらこれらのツールをそれ程過度に用いてはいない様子。結局、夜な夜な誰かの下宿に参集して、酒でも飲みながら「あーでもない。こーでもない」と侃々諤々の論戦を展開しておるようです。
だから《実のあるアクション》が起こせるのだと直感しましたね。逆にこれまでのFMC(うちにも大学生とか若者は沢山出入りしてます)は、何か事ある度に、やれメーリングリストの構築だ!プロジェクト専用BBSだ!と・・
ツールを素早く用意するという点では「天才的」でありました。しかも金をかけずにね。
ところが、情報交換は活発に展開するけれど、いざ事を起こすというときに全体のモチベーションが上がっていなかったり、それこそコンセントレーションなんか全然無いわけですよ。で、しかも決定的にマズいことは・・新たにモチベーションが高い人物が入って来ても、その豊富なITインフラの前に立った途端、ツールに頼る人物に変身していくという悲劇・・。実は、1年かけて「構造改革」を断行しましたが、結局意識改革には至りませんでした。
で、一部の幹部スタッフを残して、全員クビにしまして、再構築をやっちゃいました。やってみたら意外と簡単に出来てしまった。リストラじゃありません。『デコンストラクション』です。(字数が足りないので、御自分でお調べ下さい)
なんだか社員の意識がうまく統一されていないなぁとお嘆きの社長さんが、まっ先に頼ろうとするものの1つにITがありますが、これで決定的にダメになっちゃうケースも散見されるようになりました。
これは、ITやマルチメディアに関する様々なツールが、現時点では未だ補助的なものの域を出ていないからです。
不完全なものは、その便利だと思う部分を抽出して用い、
もっと本質的な部分への補助として使用すべきでありましょう。
何よりも『直接会っていろいろお話する』のが大切なことだと思うのです。
今回の文章をお読みになって「同感だ」あるいは「そんなことはない」という様々な感想をお持ちになられたことと思いますが・・どうです?直接会ってお話してみませんか?メールのやりとり(日に150通は書いてたりする)にちょっと飽きてきましたので・・・逆にいろんな業種に属される方(年齢問わず)といろいろ語り合ってみたいと思います。あ、こういう時にはメールが便利だな。「語ってみたいテーマ」などをお書きになって、私宛にメール下さい。よろしく!・・宛先は、taneda@fmc.or.jp
そのうち、毎月第○○曜日に「居酒屋×××」に行くと必ず種田が居て、誰とでも飲んで話をする…という某政党党首のようなことをやっちゃうかもしれません。(笑)


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