テレコム九州における自己完結型エッセイ/ParaTのいけてるマルチメディア
テレコム九州は「社団法人九州テレコム振興センター」が発行する小冊子(季刊)です。

Vol.26「本が出たので、ふり返ってみる。」

2003年9月上旬執筆(2003年10月号掲載)

(前書き)

遂に本が出ちゃいました。
あ、そうそう・・前号では『FMC読本〜ウェブラジオFMCインサイドストーリー〜』とご案内してましたけど、ちょいと変りました。『聴かせてやんない!〜ウェブラジオFMCインサイドストーリー〜』が正式タイトルです。全国の有名書店でお買い求めになれます。(もちろん小さな書店でも注文すれば買えます・・多分)
・・でも、そこそこ売れてますよ。ふふふ(不敵な笑い)
そんなわけで、今回はこの本が出版に至るまでのいろんな話を軸にちょっぴり熱くなる話を展開しちゃうのであります…。
暇つぶしの斜読みでおつき合い下さい。


今回はマル秘エピソード満載。

ちょうど去年の今頃でしたか。「ウェブラジオFMCも、日本のウェブ放送局の草分けとしてそこそこ知られるようになったのだから、そろそろ本でも書いて自分達の主張を公(おおやけ)にしてみたらどうだ?」なんて声が、あちらこちらで上がったんですよ。
私としましては、本1冊分の原稿執筆なんざ、只々面倒臭い話なので、全然乗る気にならなかったのですが、傍観者を決め込んでいるうちに、いつの間にか《執筆不可避》といったムードに支配されるに至っちゃいまして、昨年の12月初旬でしたね〜「執筆致します。書けばいいんでしょ…書きますよ!」と宣言させられちゃったわけであります。
もっとも、この時点では出版社なんて全く決まっておりません。そもそも本当に「本」になるのかさえ分からないという、全くもって『見切り発車』で出版プロジェクトがスタートしちゃったのであります。
余談ですけど、別件で出版の話はあるにはあるんですよ。栃木県に居た名代官を主人公にした歴史小説の話が10年前からありましてね。よくまあ出版社さんも諦めないなと感心しますけど、私がダラダラやってるもんで、果たして完成はいつの日か?というのが1つ…。
もう1つは『放送映像ディレクター事典』というやつで、これも理工系出版最大手のO社(某宗教団体に似た名前)から出版されることが決まってるんですけど、これが語句の追補の連続で、今の時点で「完成!」と言えば直ちに完成なんですけど、なんだか納得がいかない。しかも現在の語彙の量からすると「本」というスタイルにすることにすら抵抗を感じるくらいでして、これは電子化するしかねーな・・と諦めてたりするのです。
もっともO社の前社長が私の従兄弟でしてね。それに私の親父が九州測量専門学校の副校長だった頃にココから2冊専門書を出してまして、その縁もあって出版が決まってたんですけど、今は知らない人が社長をやってるということもあって・・「無かったことに(笑)」という感じです。そのうちDVDで出しますからお待ち下さい。
・・話が脱線したので復旧します。
ともかく『本にする予定』で執筆作業が動き出しました。12月下旬には大まかなプロットも出来上がり「さあ!いつでも初められるぜ!」てな状況になったわけです。ところがここでアクシデントが発生!・・なんと私、病気になっちまいました。病名は『上顎洞炎』と言います。最初、左の奥歯が余りに痛むもので歯科医に診てもらったのですが「虫歯ではない」という診断。で、レントゲン撮ったりいろいろ検査をしてもらったら、歯の病気ではなくて鼻の病気で歯が痛んでたということが分かり、直ちに耳鼻科に転院であります。こちらでもレントゲン撮られて「一生分被爆してねぇか?ブツブツ・・」なんて言っていると「これは上顎洞炎ですね。それほど酷くはないけれど、ちょうど奥歯の神経の根元のところで炎症を起してますね。痛いでしょ(笑)」笑い事ではないのであります。これがまた地獄の痛みでしてね。夜中に飛び起きて絶叫したくなるほど強烈な痛みであります。
あ、病気自慢の話ではございません・・。この治療に今年正月をまるまる費やしてしまい、執筆が全く軌道に乗らなかったのです。その後、治療とか新学期の準備などで忙殺され、結局執筆作業がまともに再開されたのは3月に入ってからのことでした。
それからは《怒濤の快進撃》であります!・・と言うのは嘘で、過去の記録との睨めっこに結構な時間を奪われ、計画としては10日前後で脱稿となる予定が、なんと3ヶ月も費やしてしまったのであります。報告書とか企画書、それにこの『いけてるマルチメディア』とかは早いんですよ。ちなみに『いけてるマルチメディア』はレイアウト作業まで含めて凡そ2時間弱で出来上がりであります。業界では「高速作家」という称号まで頂戴しておるのです。
それがなんと3ヶ月。これは時間喰い過ぎでありました。なにぶん、私の小学生時代から話がスタートする大河ノンフィクションでありまして、いろんな人物とか団体とか実在のものが沢山出て来ます。思いきり痛快に悪口言ってるものもあります。・・毒舌に関しては『いけてるマルチメディア』の比ではなかったりします(笑)。
でも、嘘は書けませんからね。資料を元に年表とかいろいろ作りまして、じっくりじっくり書き上げていった渾身の長篇ということになりますね。
さて6月遂に脱稿です。目的を達成した充実感と言いますか、満足感に浸っていると…「で、出版社はどこにするの?・・自費出版は駄目よ。お金無いから!」冷静かつ厳格なコメントの十字砲火が開始されました。最期まで絶対に逃がさないぞ!という断固たる決意が伝わって参ります。
書店を回ったり、ウェブを眺めたりしながら、とりあえず3社をピックアップしてみました。当然1面識も無い初見の出版社であります。選んだ基準は、それぞれのウェブサイトを見て、会社としての姿勢が前向きであること。既刊がそれなりにきちんとした内容のものであることなどを総合的に判断し、それでこの3社になったのです。
早速、企画書をメールしました。
2日後、1社からメールで返事が届きました。
「申し訳ありませんが、ただいまの当社の状況ではご相談に応ずることがかないません。ご健闘を」というものでした。お断りの内容でありましたが、極めて丁寧な返事でしたので、私はこの出版社が好きになりました。『樹花舎』と言います。何かいい本との出会いがあったら応援してあげて下さい。
その翌日、変なメールが届きました。

『読ませてやんない!?〜全国まんべんなく沢山の書店にまいて読んで頂くのが「大手出版社」、読みたい人にだけ狭くお届けするのが「小出版社」…。くまざさは当然後者です。ですから、それでもそこから出版したいと思うか思わないかはあなたの自由です〜』


最初何じゃコレは?と思いましたね。このメールにはこの文章と署名だけが記されているだけ。ちょっと謎めいたメールだったのです。
でも良く見ると・・実はこの文章、FMCの運営コンセプトの文章のパロディなんですね。
FMCのサイトにはこう記されています。

『聴かせてやんない!〜沢山の人々に広く聴いて頂くのが「Broadcast」、聴きたい人にだけ狭くお届けするのが「Narrowcast」…。FMCは当然後者です。ですから、聴きたくなければ聴かないで下さい。お気に召さなければ無視して下さい。チビなくせにタカビーなラジオ局であるということを認識して頂ければ幸いです。リスナーになるかならないかはあなたの自由です〜』


・・要するに、企画書をじっくり見た上で、FMCサイトを隅々まで見て、そして我々の活動コンセプトを理解してくれたということなのでしょう。
私は直ちに執筆したての原稿(写し)と、自分でデザインした表紙見本を梱包し、速達で郵送することにしました。当然この時点では、本が出るかなんて分かりません。ひょっとしたら単にからかうつもりでふざけたメールを送って来ただけかもしれません。でも私には確信がありました。
そして6日後・・届いたメールがこれ。

『昨夕まで出張だったため、ご返事が遅れました。原稿、確かに拝受いたしました。先日はそっけないメールで失礼しました。どうお返事してよいのやらと思案して、あのようなカタチでお送りしました。
「読ませてやんない!?」とは、本来、出版社として言うべきものではなくて、読んで貰うための努力はしなければいけませんし、また、ぜひ読んで欲しいからこそ出版する価値があるのです。
最初、メールを頂いた時点で、原稿内容うんぬんは別として、なにより自分が読んでみたいと思いました。
なので、私の中ではあのメールをお送りした時点でOKでした。本来的に言うと、種田さんから話が舞い込んでくるのではなく、私がFMCに目を向けて、発掘して、種田さんに「本を出しませんか?」と持ちかけたかったです。それが唯一、悔しいです。
さて、私個人としては出版に向けてのドライブはすでに高まっています。なので、種田さんの方でも差し支えなければ、きわめて近々のうちに熊本に行きたいと思います。FMCを見学させてください。本を出すのであれば、FMCの空気に触れて、少しでも認識の差がないようにしておきたいので。ご返事、お待ちしています。』


・・どうです?ちょっと感度的な話でしょ。
この時点で出版が「決定!」となりました。
出版社の名前は『くまざさ出版社』・・。東京渋谷に事務所を構える小さな出版社です。他に『電脳山田村』などのIT関係の書籍や、橋本高知県知事の本など、良質の本を幾つか出版しているところです。ちなみにメールを書いていたのは社長のM氏。
その後、程なく彼は熊本に飛んで来ました。酒宴で思いきり意気投合したのは言うまでもありません。
「FMC読本は固いかも。どうです?FMCのコンセプトである『聴かせてやんない!』これタイトルにしちゃいましょうよ!」「どうせならFMCのオリジナル番組しかも思いっきりブラックジョークのキツイやつを入れたCDも付けて売りましょう」M氏が目を輝かせて提案します。
その中身は・・おっと!知りたい人は書店へどうぞ。ちなみに全国の紀伊國屋書店のお勧め新刊に選ばれましたし、その他の大手チェーン店さん、地元書店さん、軒並み注目の新刊と相成りました。ネット書店でも結構売れてます。
ちなみに紀伊國屋書店さんの推薦の言葉は『誰もが情報発信者になれる時代のお手本がここにある』…是非宜しく!(目指せ印税生活!〜笑)



さてお立ち会い!
私は、少年時代に「放送メディア」という極めて権威主義的な化け物と出会って、それに憧れ、憎み、そして手前勝手な咀嚼の結果として、自前のメディアを立ち上げるに至りました。それは確かに自己満足を是とした多分に趣味的なものであったわけですが、インターネットという要素が加わったことにより、幸か不幸か、世間様から認知される存在になってしまったわけです。(ちなみに検索サイトの超大手googleのインターネット放送ランキングではFMCは首位です。NHKさん民放さんごめんなさい。)
で、それまでの右往左往の27年間を本にしようということで動き出した見切り発車のプロジェクト・・結局その目的を完遂させてしまった要素の中に、インターネットを介したメールのやりとり、しかも思いきりハートの熱いコミュニケーションが存在していたのです。こんな使い方も出来たんだな・・ちょっと感慨深げな今日この頃です。


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